東京藝術大学学長特命教授 三田村有純

1 漆の力を知っていた縄文人

縄文人が残した夥しい漆藝品を熟覧すると漆は「造形素材」、「接着材」、「絵画素材」、「塗料素材」として使われていることが分かる。漆の力を理解していたことで、縄文人の高度な技術力と、豊かな感性が感じられる。そして漆の持つ永遠性と言う霊力が有る事を知っていたのである。

2 漆の個性を探り、作品に昇華する

漆は樹から滲み出る天然樹液であり、森の高温、高湿度の中、一晩で固化をする。この素材と出会い、使いこなした縄文人は有用な樹木としてウルシの栽培・管理をしていた。

ウルシから樹液を採取し、「なやし」と「くろめ」をし、顔料を混ぜ、木の造形物,竹や籐を編んだ物、繊維を織ったものに塗り、土器に焼き付ける。これらを担うのは専門職であり、代々技法が伝わっていったのである。

3 漆だからこそ創り出された「かたち」と「表情」

私達は今、縄文人と同じ技法で作品を創っている。自然素材を造形し、漆を塗り重ねることでその表情が独立した存在となり、人の心を打つ美に変わる。漆の表層は奥行きの有る透明感の重なりだからこそ、光を反射し、吸収する。

4 ウルシの木を植えよう

木を植える事は、地球環境の緑化保存と言う事で大きな意義が有る。その中でも江戸時代から、キリ、クワ、コウゾと並んで、ウルシはその実から取れる漆蝋の採取、倒した木で作る漁網の浮きや、黄色の染料等に使う為に特に有用な樹木として、日本国中の各藩がこぞって植えていた歴史を持っている。

ウルシの管理は手間がかかるが、将来に大きな未来を繋いでいく。今後は、ウルシは漆液を取るだけの物では無く、薬用として等、全く違った観点からの世界的な需要が有るものと信じている。